無痛分娩
無痛分娩をご検討中の方は、妊婦健診の際にお申し出ください。
無痛分娩専用の説明同意書をお渡ししますので、妊娠36週(10か月)までには、「無痛分娩をするかどうか?」、無痛分娩を希望される場合は「オンデマンド無痛分娩か、計画無分娩か?」などの方針を決めていければと思います。
陣痛の痛みとは
分娩は、第Ⅰ期から第Ⅲ期までの3つの段階に分けられます。
- 分娩第Ⅰ期
- 陣痛が始まってから子宮の出口が完全に開くまで
- 分娩第Ⅱ期
- その後赤ちゃんが生まれるまで
- 分娩第Ⅲ期
- 胎盤が出てくるまで
分娩第Ⅰ期
子宮が収縮することや子宮の出口が引き伸ばされることにより下腹部に痛みが生じます。図1に示すように、子宮の収縮や子宮出口が引き伸ばされることによる刺激は、子宮とその周辺にある神経から背骨の中の神経(脊髄)を介して脳に伝わり、そこで痛みとして感じられます。陣痛が始まってから子宮の出口が完全に開くまでは、お腹の下のほうから腰にかけて痛みを感じます。 陣痛が始まったばかりの頃の痛みは比較的軽く、「生理痛のような痛み」または「お腹をくだしているときのような痛み」と感じる妊婦さんが多いようです。
お産が進み子宮の出口が半分くらい開いてくる頃に痛みは急に強くなり、また痛みを感じる範囲も広がってきます。 そして分娩第Ⅰ期の終わる頃には、おへその下から腰全体、そして外陰部にかけてとても強く痛むようになります。
子宮が収縮したり、子宮出口や膣が引き伸ばされたりすると、その刺激は神経(黄色く描かれた線)を介して脊髄に伝わります。その後、脊髄を上って脳に至り、「痛み」として感じられます。
分娩第Ⅱ期
赤ちゃんの体の一部が子宮内より下のほうに降りてくるため、腟と
分娩第Ⅲ期
約10~30分ほどで、通常はあまり痛みを感じません。
痛みの抑え方
さまざまな部位の痛みは分娩第Ⅰ期から第Ⅱ期にかけて突然変化するものではなく、強さを増しながら徐々に変化していきます。
子宮や腟、
脊髄にある
硬膜外鎮痛法は無痛分娩のときのみに用いられる方法ではなく、一般の手術のためや帝王切開後の鎮痛の目的で日常的に使われている方法です。ただし、使う薬の種類や濃度は手術の場合とは異なります。
無痛分娩の方法
現在、欧米諸国では大部分のお産で何らかの痛み止めの手段が施されています。その中で最も一般的な方法が「持続硬膜外麻酔による無痛分娩」です。米国では、この方法を用いたお産が8割を占めるといわれています。
分娩方法は、自然陣痛が始まったら来院して麻酔を開始する「オンデマンド無痛分娩」と陣痛開始前に麻酔を準備する「計画無痛分娩」に分けられます。
オンデマンド無痛分娩
自然陣痛が始まったら来院していただき無痛分娩を開始します。自然な陣痛による比較的スムーズな分娩が期待できます。デメリットとしては、安全に麻酔を行うためには、麻酔準備から効果が得られるまでに時間(30~60分)を要するため、その間は、痛みをともないます。
計画無痛分娩
陣痛の痛みのある時間を少しでも減らしたい方や、分娩進行が比較的早い経産婦さんでは、鎮痛が間に合わないことがあるため、陣痛開始前に麻酔を準備する「計画無痛分娩」とすることが多いです。
計画無痛分娩(誘発分娩)は、赤ちゃんが十分に成熟していることと、経腟分娩が可能なことが前提です。具体的な日程は、お腹の張りが頻繁になり、子宮の出口が柔らかくなる(“熟化”といいます)時期などを踏まえ相談して決定します。次の方法を組み合わせて、“分娩誘発”を行います。
分娩誘発の方法
-
- 風船メトロ(バルーン)を使って熟化をすすめる方法
- 子宮の出口の熟化が進んでいない(未熟である)場合には、子宮の出口に小さい風船(バルーン)を入れて熟化を促します。
-
- 陣痛促進剤を使う方法
- 陣痛を強めるにはオキシトシンやプロスタグランジンという子宮収縮薬を使用します。この薬はもともと人の体内にあるホルモンの一種です。人によって効果が異なるため、少しの量から始めて、だんだんに増やしていきます。陣痛が強くなりすぎると赤ちゃんの酸素が足りなくなったり子宮が裂けたりすることがあるので、分娩進行中は赤ちゃんの心音(心拍数)と子宮収縮の状態を注意深く観察します。おなかにベルトを巻いて観察します。
硬膜外麻酔の流れ
硬膜外鎮痛は、陣痛が始まって妊婦さんが「痛み止めをほしい」と感じ、産科医の許可が得られた時点で開始します。子宮の出口が5cm程度開く頃に以下の流れに沿って進めてまいります。
- 1 急時に投薬などの対応ができるよう点滴をつなぎます。その時点では、薬剤は入っていません。
- 2 ベッドに横向きに寝た姿勢で、背中の奥に薬を注入するための細い管を入れていきます。
- 3 最初にとても細い針を使って皮膚に痛み止めをします。そして管を入れるためのやや太い針(硬膜外針といいます)を刺します。 このときはもう皮膚の痛み止めが効いているので痛くありませんが、押される感じは残ります。 針の先を硬膜外腔まで進めたら、その針の中を通して管を硬膜外腔に入れます。
- 4 その後、針だけを抜くと柔らかい管だけが体に残ります。柔らかい管は、背中にテープでしっかりと固定されます。管が入ってしまえば、背中を下にしたり、体を動かしたりしても大丈夫です。 全体として20~30分ほど要します。
- 5 効果が現れ始めたときには、陣痛が弱くなったと感じる妊婦さんが多いようです。 効果が十分に現れると、お腹が張っているのに痛みがなくなっていることに気づくと思います。 同時に足が軽くしびれた感じがあるかもしれませんが、心配ありません。
硬膜外麻酔の管が入ったあと、鎮痛が得られたら専用の注入ポンプ機を用いて薬を持続的に注入し、一定間隔または痛みが出てきたときに薬を追加注入します。当院では、妊婦さんが疼痛を感じた時にご自身でボタンを押して薬を投与できる、自己調節硬膜外鎮痛(PCEA)を用いており、鎮痛効果が高く、妊婦さんからもご満足いただいております。
分娩が長引いたとしても、分娩所要時間に応じて必要な分だけ麻酔を続けることができるので、薬の効果が途中で切れる心配はありません。薬は局所麻酔薬という薬と医療用麻薬を混合したものを使用することが一般的です。
分娩が終わると硬膜外腔への薬の注入を止めます。鎮痛効果は徐々に弱くなり、数時間後にはすっかりきれてしまいます。硬膜外腔に入れた管は、分娩後の鎮痛効果を必要としなくなった時点で抜いてしまいます。その後の経過や過ごし方は、赤ちゃんとの接し方も含めて、無痛分娩をしなかった分娩と違いはありません。
麻酔中は、不具合が生じないように細心の注意を払って麻酔を行います。 しかし痛み止めの効果が得られるとともにしばしば起こる副作用や、ごくまれに起こる不具合があります。
また無痛分娩を受けていなくてもお産のあとに起こりうる不具合もあります。
無痛分娩中の制限事項
飲食
無痛分娩開始後は、誤嚥性肺炎のリスクを減らすため原則的に固形物の摂取を禁止し、清澄水(水、スポーツドリンク、果肉をふくまないジュース、炭酸飲料、お茶など)のみとさせていただきます。点滴で水分補給を行いますが、分娩時間が長くなる場合は、必要に応じて軽食をとっていただくことがあります。
歩行
麻酔により足の感覚や、足を動かす神経も鈍くなります。そのため歩行中に転倒する危険性がありますので、無痛分娩開始後は、原則としてベッド上で横を向いて過ごしていただきます。
トイレ
無痛分娩中はベッド上で安静となりますので、トイレにいけません。また、麻酔の効果で自分での排尿も困難になることもありますので、必要に応じてスタッフが尿道に細い管を入れ導尿します。
無痛分娩のメリットとデメリット
無痛分娩では、分娩時の痛みを軽減するメリットがある一方、麻酔薬を使用することにより起こりうるデメリットもあります。
ここでは、それらのメリットデメリットについてご説明いたします。
無痛分娩のメッリット
- 痛みで取り乱すことなく落ち着いて分娩ができる
- 他の痛み止めより効果が確実
- 赤ちゃんへの影響を認めない
- 体力が温存でき、分娩後の体力回復も早い
- 分娩後、会陰部縫合の際の痛みにも効果がある
無痛分娩のデメリット
しばしばある不具合
- 足の感覚が鈍くなる、足の力が入りにくくなる
- 麻酔薬によってお産の痛みを伝える背中の神経を鈍らせると、痛みが取れるとともに足の感覚が鈍くなったり、足の力が入りにくくなることがあります。 その程度は妊婦さんよって様々です
- 低血圧
- 背中の神経には、血管の緊張の度合いを調節しながら血圧を調節する神経も含まれています。 よって背中の神経が麻酔されることによって、血管の緊張がとれ血圧が下がることがあります。 その程度は一般的には問題とならない程度です。まれに通常より程度が大きい場合があり、妊婦さんの気分が悪くなることがあります。 そのため、無痛分娩を行うときには、血圧を注意深く監視し、血圧が下がった場合には速やかに対処します。
- 尿をしたい感じが弱い、尿が出しにくい
- 背中の神経には、尿をしたい感覚を伝えたり、尿を出すための神経も含まれており、鎮痛の効果が現れるとともに、膀胱に尿がたまってもそれを感じなくなったり、尿を出そうと思っても上手く出せなくなったりすることがあります。 その際は、細い管を入れて尿を出します。管を入れる処置は麻酔が効いているために痛くありません。
- かゆみ
- 無痛分娩に医療用麻薬を組み合わせて使うと、その影響でかゆみが生じることがあります。 がまんできないときには薬を使って治療しますが、ほとんどの場合、治療を必要としない程度のかゆみです。
- 発熱
- 無痛分娩を受けている妊婦さんの一部では、無痛分娩を受けていない妊婦さんよりも体温が高くなると報告されており、 特に初めてのお産のときにその傾向が強いといわれています。 熱がでるのは風邪をひいたときなどのように感染の影響と思われがちですが、無痛分娩中の発熱は、細菌感染が原因ではないと考えられています。 原因としては、子宮収縮にともなって代謝が亢進することや汗をかきにくくなること、痛みが取れているため呼吸が速くならず熱が体の外に放出されないことなどが考えられています。 また、細菌感染が発熱の原因になっていないかを調べるために妊婦さんと出産後の赤ちゃんに採血検査をすることがあります。
まれに起こる不具合
- 頭痛
- まれ(約100人に1人程度)ではありますが、硬膜外腔に細い管を入れるときに硬膜が傷つき(硬膜穿刺)、頭痛が起こる場合があります。 この頭痛は、硬膜に穴が開き、 その穴から脳脊髄液という脊髄の周囲を満たしている液体が硬膜外腔に漏れることにより生じるとも言われており、頭や首が痛んだり吐き気がでたりします。 産後2日までに生じ、症状は特に上体を起こすと強くなり横になると軽快します。まず安静にすることや痛み止めの薬をのむことで治療をします。 ほとんどが1週間以内に改善します。
非常にまれな副作用
- 血管内に麻酔薬が入ってしまうこと
- 硬膜外腔にはたくさんの血管があり、妊娠中にはそれらの血管が膨らんでいます。 そのため、硬膜外腔へ入れる管が誤って血管の中に入ってしまうことがあるといわれています。 麻酔の薬が血管の中に注入された場合は、一時的に耳鳴りや舌に金属のような味がするなどの異常な症状が出ます。 血管の中に管がある場合には、管の位置の調整をして血管の外に置きます。
- お尻や太ももの電気が走るような感覚
- 硬膜外腔に細い管を入れるときに、お尻や太ももに電気が走るような嫌な感じがすることがあります。 これは、管が脊髄の近くの神経に触れるために起こります 。一般的にはこの感覚はほんの一時的なもので、特別な処置を必要とせず軽快します。 場合によっては管の位置の調整が必要なこともあります。
- 脊髄くも膜下腔に麻酔薬が入ってしまうこと
- 硬膜外腔へ管を入れるときや分娩の経過中に、硬膜外腔の管が脊髄くも膜下腔に入ってしまうことが、まれにあります。 脊髄くも膜下腔に薬が投与されると、麻酔の効果が強く急速に現れます。
- 硬膜外腔や脊髄くも膜下腔に血の塊(血腫)、
膿 のたまり(膿瘍)ができること - 麻酔の薬が投与されるべき硬膜外腔や脊髄くも膜下腔に、血液のかたまりや膿がたまって神経を圧迫することがあります。血腫の発生率は18万分の1以下、膿瘍の発生率は11万分の1といわれ、非常に稀とされています 永久的な神経の障害が残ることがあるため、できる限り早期に手術をして血液のかたまりや膿を取り除かなければならない場合があります。 正常な人にも起こることがありますが、血液が固まりにくい体質の方や、注射をする部位や全身にばい菌がある方は、血のかたまりや膿ができやすいので、 無痛分娩を行うことができません。
無痛分娩を受けなくても、お産のあとに起こる可能性があること
- 産後の神経障害
- 6057人のお産について、産後の神経の障害を調べた研究があります。 この研究では、硬膜外無痛分娩等をしたことと妊婦さんの神経の障害とのあいだに関連を認めませんでした。 お産のあとの神経の障害は、赤ちゃんの頭と妊婦さんの骨盤の間で神経が圧迫されることや、お産のときの体位が原因で起こることが圧倒的に多いといわれています。
- 腰痛
- 妊娠中から産後に腰が痛くなることがよくあります。 しかしこれらの多くは、妊娠にともなって背中の靭帯が軟らかくなり、妊娠して大きくなった子宮の重みがかかることで、背骨にかかる負担が大きくなるために起こります。 腰痛は、無痛分娩を受けた人も受けなかった人も同じくらいよく起こると報告されています。
無痛分娩ができない場合
妊婦さんの状態によっては、硬膜外鎮痛を希望してもできない場合があります。例えば以下のような状態です。
- 血液が固まりにくい状態
- これまでに血液が固まりにくい体質だと言われたことがある方は医師にお伝えください。 当院では、全ての妊婦さんに妊娠35~36週があらかじめ(血液凝固能)血液の固まりやすさの検査を行います。
- 大量に出血していたり、著しい脱水がある場合
- 無痛分娩を行うと血圧が急激に低下する危険性が高いため、行うことができません。
- 背骨に変形がある場合、背骨の神経に病気がある場合
- 背骨に変形がある場合は、変形の程度や、変形の位置によっては、硬膜外腔に管を入れることがとても難しいことがあります。 また背中の神経が病気に冒されていると、神経の近くに麻酔薬を投与する無痛分娩は行えないことがあります。
- 注射部位に
膿 がたまっていたり、全身に感染が疑われる場合、高熱がある場合 - 背中の注射する場所や全身に感染がある場合は、硬膜外腔に刺す針や管を介して、硬膜外腔に細菌を持ち込んでしまう危険性があります。
- 局所麻酔アレルギー
- 局所麻酔薬に対するアレルギー反応はまれですが、起こると深刻な状態に陥ることがあります。もしも以前に局所麻酔薬に対してアレルギー反応があった場合には、必ず担当医にお伝えください。
その他の注意事項
- 無痛分娩は自費診療のため健康保険は適応されません。通常の分娩費用に9万円の追加となります。当初、無痛分娩の予定がなく、緊急で無痛分娩をされた場合、緊急加算として2万円がかかります。
- 効果が十分得られないことが数%に認めます。その場合、再挿入を行うことができます。
- 安全に麻酔を行うためには、麻酔準備から効果が得られるまでに45~60分ほどの時間を要します。特に経産婦さんでは、分娩進行が早く鎮痛が間に合わないことがあります。陣痛開始前に麻酔を準備する「計画無痛分娩」とすることが多いです。
- 分娩所要時間が長引いても、費用の増額はありません。また、分娩が急速に進行し、十分な鎮痛が得られる前に分娩に至った場合も費用は変わりません。
- 硬膜外カテーテルが、医学的に挿入困難な場合は無痛分娩の計画は中止となります。また、何らかの理由で帝王切開に切り替わった場合も、それまでに要した麻酔の診療材料費をのご請求させていただきます。
無痛分娩についてご不明な点やご質問のある場合は、妊婦健診の際にお気軽におたずねください。
妊婦さんやご家族の不安を解消し、満足のいくお産ができるよう、スタッフ一同サポートしてまいります。