新型出生前検査(NIPT)とは
「新型出生前検査(NIPT)」 とは、妊婦さまの血液中に含まれる、お腹の中の赤ちゃん(正確には胎盤由来)のDNA断片(cell-free DNA; cfDNA)を解析することで、赤ちゃんの特定の染色体疾患を調べる検査です。
NIPTの正確な名称は、「無侵襲的出生前遺伝学的検査」または「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査」ですが、母体血清マーカー検査等と比べて、新たに開発・導入されたため、国内では「新型出生前検査(NIPT)」とも呼ばれています。
2008年に開発され、2011年に米国で臨床応用されました。日本では2013年に臨床研究として導入され、日本医学会で認定された施設で検査が実施されるようになりました。
NIPTによって調べることができるのは、21、18、13トリソミーだけです。NIPTは、21、18、13トリソミーに焦点を絞れば非常に検出率が高く、偽陽性が少ない有用な検査といえます。これは先天異常の中の一部です。その他のさまざまな染色体異常を検出できるNIPTを提供する施設もありますが、この3つのトリソミー以外の染色体異常の赤ちゃんの多くは、初期に流産に至ってしまいます。また、すべての微細染色体異常をNIPTだけで見つけることはできません。宮崎産婦人科では、NIPTを補うことができるのが、胎児超音波検査(胎児ドック)と考えています。
また、NIPTは染色体異常の疾患について「疾患あり」または「疾患なし」がわかる確定診断ができる検査ではなく、染色体疾患を有する可能性が“高い(陽性)”か“低い(陰性)”かを、高精度で判定する「非確定的検査」に含まれ、「確定的検査」ではありませんので、ご注意ください。
出生前にお腹の赤ちゃんが染色体疾患を持っているかを確実に検査する方法は、羊水検査と絨毛検査があり、「確定的検査」と位置付けられています。
- 新型出生前検査(NIPT)では、次の3つの疾患を調べることができます。
- ダウン症候群(21トリソミー)
- 18トリソミー
- 13トリソミー
これら3つを合計すると、胎児の染色体疾患の約70%に相当します。
生まれてくる赤ちゃん100人中3~5人ほどは先天的な疾患を持って生まれてきます。この中で染色体が原因の疾患は約25%を占めます。NIPTの検査対象である3つの染色体疾患(21、18、13トリソミー)は、更にその約70%です。
このことを計算してみると、NIPTの検査対象である3つの染色体疾患のある赤ちゃんは100人あたり0.7人程度となります。先天性疾患を持つ赤ちゃん100人あたり17.5人程度となります。
つまり、染色体疾患以外の先天性疾患も多くありますが、その部分はNIPTだけではカバーできず、エコー検査が非常に重要な役割を持ちます。
検査の原理
妊娠中のお母さまの血液中には、赤ちゃんに由来するわずかなDNAの断片が存在します。このわずかなDNAを解析し、赤ちゃんの染色体疾患を調べます。
まず最初に、血液中の一つひとつのDNA断片の情報を読み取ります(下図)。
次に、それらのDNA断片が何番の染色体由来かを決定し分類していきます。
分類後、各染色体由来のDNA断片の量的な割合を見ることで、特定の染色体の変化を検出し、標準値と比較することで陰性か陽性かを判別します。
新型出生前検査(NIPT)の特徴
特徴その1
従来の非確定的検査と比べて、精度が高い
- 従来の非確定的検査である母体血清マーカー検査(クアトロ検査🄬やオスカー検査)は、クアトロ検査で感度80~85%、オスカー検査で感度約90%でした。
- これに対して、新型出生前検査(NIPT)は感度99%と精度が高く、赤ちゃんの染色体疾患をより正確に発見することができます。
- 数値は40歳の妊婦さま(ダウン症候群が100人に1人生まれる)の集団の場合の割合
〈もう少しくわしく〉
検査の精度と用語について
疾患がないのに検査陽性(偽陽性)、また疾患があるのに検査陰性(偽陰性)と出ることがあり、偽陽性や偽陰性が少ないほど検査の精度が高いといえます。
検査精度を表す指標には、感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率があります。
- 感度:
- 疾患がある場合に正しく検査陽性と出る割合
- 特異度:
- 疾患がない場合に正しく検査陰性と出る割合
感度と特異度は、検査方法ごとに決まります。
- 陽性的中率:
- 検査陽性と出た場合に、実際に疾患である確率
- 陰性的中率:
- 検査陰性と出た場合に、実際に疾患でない確率
陽性的中率や陰性的中率は、実際検査を行う際に、ご夫婦には参考になる指標です。しかし、これらは疾患の頻度に左右されます。まれな疾患に対しては、陽性的中率は下がってしまいます。すなわち同じ検査でも、高年妊婦に対してNIPTを行った場合の陽性的中率は高くなり、高齢妊娠ではない妊婦に対してNIPTを行った場合の陽性的中率は低く出ます。つまり検査精度が変化するので注意が必要です。
NIPTコンソーシアムにおける検査精度
日本では2013年4月よりNIPTコンソーシアムによる本邦における検査精度を検討するための臨床研究が始まりました。2019年3月までの6年間の検査総数は、72,526件にのぼり、それらが集計されてきました。
表. NIPTコンソーシアムによるNIPT検査精度(2013~2018年 56545件)
| 21トリソミー | 18トリソミー | 13トリソミー |
感度 | 99.70% | 99.60% | 100% |
特異度 | >99.9% | >99.9% | >99.9% |
発生頻度 | 1.01% | 0.49% | 0.08% |
陽性的中率 | 96.3% | 86.9% | 53.1% |
陰性的中率 | 99.996% | 99.998% | 100% |
NIPTでは、偽陽性や偽陰性が少なく、感度と特異度が非常に高いです。しかし、偽陽性例が必ず存在し、陽性的中率は100%にはならないので、必ず確定検査(絨毛検査、羊水検査)で確認をする必要があります。
なお、日本でのNIPT検査理由の9割以上が高年妊娠で、平均年齢は38歳でした。
海外の高齢妊娠に限らない一般妊婦におけるNIPTの検査精度
| 21トリソミー | 18トリソミー | 13トリソミー |
イギリス ※1 | 82% | 37% | 49% |
オランダ ※2 | 96% | 98% | 53% |
検査を受ける年齢層が下がり、疾患頻度が下がると陽性的中率が下がります。
- 1 BMJ Open 6(1):e010002, 2016
- 2 Am j Hum Gent 105: 1091-1101, 2019
精度が高いNIPTでも注意が必要なのは、検査結果が出ない結果を判定できず、情報が得られていない「判定保留」と「検査結果の不一致」です。
「判定保留」とは?
結果を判定できず、情報が得られていない場合、“判定保留”という結果が出ることがあります。
NIPTコンソーシアムで行ったNIPTでは、判定保留は0.3%でした。原因は3つに分類できます。
- ①血液中の胎児由来のcfDNAが不十分(4%未満)で判定できないことが主な原因で、母体の肥満に関連があります。
- ②悪性腫瘍がある場合、NIPTの20~44%で複数の染色体異常が疑われる場合。3)JAMA 314: 162-169, 2015
- ③自己免疫疾患やヘパリン治療をしている場合、双胎の一児初期流産、モザイクなど
判定保留の約半数が③で、①と②が各2割、原因不明が1割のようです。
NIPTで判定保留となる原因
肥満
- 約2割
悪性腫瘍を患っている
- 約2割
-
- ヘパリン等薬剤の使用
- 自己免疫疾患
全身性エリテマトーデス:SLE
抗リン脂質症候群:APS
- 双胎の一児初期流産(Vanishing Twin)
- モザイク
- 約5割
原因不明
- 約1割
要因によっては、再検査でも“判定保留”になってしまう可能性があります。その場合は、胎児ドックをNIPT再検査と同時進行で行ったり、確定検査を行うことも選択肢としてあります。
「検査結果の不一致」とは?
「検査結果の不一致」は、つまり“偽陽性”、“偽陰性”です
NIPTコンソーシアムでは、「偽陽性(疾患がないのに検査陽性)」が0.15%、また「偽陰性(疾患があるのに検査陰性)」が0.01%でした。
偽陽性の主な原因は、判定保留でも出てきた胎盤限局性モザイク(CPM)があります。
通常、胎児と胎盤は同じ染色体で、母体血中にある胎盤から放出された胎児由来のcfDNAを解析すれば、染色体異常があった場合、それを反映した結果が得られます。
しかし、胎盤限局性モザイク(CPM)とは「胎盤には染色体異常が見られるが、胎児は正常核型」という状態のため、検査結果に不一致が生じてしまうのです。
つまり、NIPTは胎児そのものではなく、胎盤の一部を検査しているに過ぎないのです。
101,218例中のNIPT結果陽性例の状況(2021年3月)
| 21トリソミー | 18トリソミー | 13トリソミー | 合計 |
陽性者数 | 1,100 | 559 | 166 | 1,827 |
確定的検査を行った数 | 981 | 417 | 138 | 1,538 |
|
真陽性数 | 955 | 367 | 75 | 1,397 |
陽性的中率 | 97.3% | 88.0% | 54.3% | 90.8% |
偽陽性 | 26 | 50 | 63 | 141 |
確定的検査を行わなかった数 | 119 | 142 | 28 | 289 |
|
流産・死産 | 75 | 119 | 24 | 218 |
妊娠を継続 | 11 | 7 | 1 | 19 |
不明 | 33 | 16 | 3 | 52 |
101,218例中のNIPT結果陽性例のその後(2021年3月)
| 21トリソミー | 18トリソミー | 13トリソミー | 合計 |
陽性者数 | 1,100 | 559 | 166 | 1,827 |
|
偽陽性 | 26 | 50 | 63 | 141 |
妊娠継続 | 38 | 26 | 4 | 68 |
流産・死産 | 97 | 167 | 31 | 295 |
妊娠中断 | 899 | 297 | 65 | 1261 |
妊娠中断率 | 86.9% | 60.6% | 65.0% | 77.6% |
不明 | 40 | 19 | 3 | 62 |
特徴その2
採血のみで検査ができるため、流産のリスクがゼロ
- 確定的検査(羊水検査や絨毛検査)では、まれではありますが流産のリスクが存在します。最近の報告では、羊水検査も絨毛検査も流産のリスクは0.1%とされ、従来いわれてきたリスク0.3%よりもっと低い頻度であることがわかってきました。
- これに対して、新型出生前検査(NIPT)は、約10mlの血液採取で検査ができるため、流産・死産のリスクがなく、安全な検査といえます。
特徴その3
妊娠の早い時期(妊娠10週頃以降)から検査が可能
- 従来の非確定的検査(胎児ドックやコンバインドPLUS検査)は、早くても妊娠11週以降でないと受けることができませんでした。
- これに対して、新型出生前検査(NIPT)は妊娠10週頃から受けることができ、赤ちゃんの状態を早く知りたいと思う妊婦さまにとっては、よりよい選択肢となります。
陽性結果が出た場合
陽性という結果が出た場合、赤ちゃんが対象疾患である可能性が高いですが、陽性的中率は疾患によって異なるため、決して絶対的な診断ではありません。
確定検査として、絨毛検査または羊水検査による染色体検査が必要となります。NIPTは正確には胎盤由来のcfDNAの検査です。そのため、確定検査としては胎盤の一部を採取する絨毛検査より胎児細胞を直接見る羊水検査が推奨されることがありますが、超音波検査を行った上で、絨毛検査が選択肢となる場合もあります。
FAQ
(よくあるご質問)
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- NIPTは、誰でも受けることができますか?
NIPT自体は、認証医療機関において十分な情報提供を行い、その上で希望された方が検査可能です。年齢制限はございません。ただし、年齢の若い方ほど、検査精度が下がるといわれています。
従来より下記の方は、検査対象とされていました。
- ・高齢妊娠
- ・胎児エコーや母体血清マーカー検査等で、胎染色体疾患の可能性が指摘された方
- ・染色体疾患を有する児を妊娠した経験のある場合
- ・ご夫婦のいずれかにロバートソン転座がある場合
- ・染色体疾患(21、18、13トリソミー)に対する不安が強い方
ただし、当院では、以下の方の検査を受け付けておりません(2022年9月時点)。
- ・多胎(双子、三つ子)
- ・肥満(BMI ≧ 35)
- ・悪性腫瘍を患っている
- ・双胎一児死亡
- ・ヘパリン注射等の薬剤使用中
- ・全身性エリテマトーデス(SLE)、抗リン脂質抗体症候群等の自己免疫疾患
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- 21、18、13トリソミー以外については、わかりますか?
NIPTは現時点では、21、18、13トリソミーの検出にのみ焦点を絞れば有効といえます。そのため、21、18、13トリソミー以外の染色体については結果を得ることができません。
特に微細欠失(重複)については、まれな疾患であり検査精度が落ちること、通常の羊水検査(G分染法)を行っても検出できない(マイクロアレイ検査を併用すると検出可能)ことから、現時点でNIPT対象外となっています。
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- 検査時期はいつごろがよいですか?
妊娠10週0日~17週6日に検査可能です。
分娩予定日が確定してから予約をおとりください。
胎児ドックを併用する方は、妊娠12週~13週に胎児ドックを行う際に、NIPTの採血も併せて行うとよいでしょう。
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- どのように予約すればよいですか?
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- 検査費用はいくらですか?
88,000円となり、別途、検査前カウンセリング料が11,000円がかかります。
当院では、クレジットカード(VISA、Master、JCB)がご利用いただけます。
カウンセリングのみの場合は、クレジットカードはご利用になれません。
詳細は、出生前検査ページの検査費用をご覧ください。
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- 検査結果は、どれくらいで出ますか?
約10日後に結果をお伝えいたします。ご来院いただき、直接、結果をご説明いたします。
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- 検査結果が、うまく出ないことはありますか?
まれに(0.3%)、胎児DNA量が不足した場合など「判定保留」という結果が出ることがあります。その場合、2週間ほど開けて再検査を行うことで結果が得られるケースと、確定的検査が必要となるケースがあります。ご説明の上、適切な方法を選択していただきます。
NIPTの再検査は、検査費用5,500円(税込)です。
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- 宮崎産婦人科は、NIPT認証医療機関ですか?
当院は、出生前検査認証生後等運営会による“認証医療機関”です。
認証医療機関は、専門のトレーニングを積み、厳しい条件をクリアした産婦人科専門医が在籍しており、安心してNIPTを受けていただけます。
その中でも、当院は臨床遺伝専門医が3名、超音波専門医が1名、周産期専門医(母体胎児)が1名在籍しており、NIPTを含むあらゆる出生前検査から適切な検査が選択可能です。
※Webサイト:日本医学会 | 出生前検査認証制度等運営委員会 (jams-prenatal.jp)
検査費用につきましては出生前検査・胎児ドックのページをご覧ください
出生前検査は完全予約制です。お電話にて予約をお取りください。
インターネット予約ではありませんので、ご注意ください。
TEL059-378-8811
【重要】受診の流れ
- ①あらかじめNIPT同意書をダウンロードし、必要事項をご記載ください。
妊婦さまおひとりで来院される場合は、あらかじめパートナーさまの署名が必要ですのでご注意ください。
- ②事前に、NIPT同意書に掲載のQRコードから、出生前検査の解説動画をご覧願います(約21分)。
ご自宅等で解説動画が閲覧できない方は、来院後にご覧いただきますので、ご予約の30分前にご来院ください。
- ③NIPT説明書をご覧ください。
「出生前検査」を受診の方は、問診票をご記入の上、ご来院いただくとスムーズです。
[出生前検査 問診票] Download